Project story 01
グローバル展開の鍵は、
現場にあった。
ブランドを定義し未来を創る
大畠 吉裕 Obatake Yoshihiro
お客様情報
従業員5,000人、海外売上比率30%でグローバル展開に注力する専門商社A社が抱えていたのは、この課題だった。投資家からの指摘を受け、IR部門が企業価値の発信方法を模索する中、JBAの大畠が担当。トップ層へのヒアリングから着手。さらに海外拠点への取材を重ね、A社の本質的な強みを探った。その結果、一貫したブランドの価値を定義した。この再定義を軸に、投資家向け報告書の刷新、コーポレートサイトのリニューアル、独自メディアの構築など、包括的な情報発信戦略を展開。当初5000万円規模だった案件は、全ステークホルダーへの価値発信という視点で2億円規模まで拡大。企業の本質的価値を掘り起こし、適切に伝えることで、持続的成長への道筋を示した事例を紹介する。
誰も定義できていない、 企業の魅力を伝えたい
投資家の指摘で浮き彫りになった企業の課題
A社の課題が浮き彫りになったのは、とある投資家との面談のことだった。「貴社は、今後のグローバル展開に向けてさらなる資金調達力の強化と企業価値の向上が必要だ。しかし、成長性を定義できてなく、投資家に伝わっていない。情報発信を見直したほうが良いのではないか」グローバル展開の本格化に向け、A社は株主からの投資による資金力の向上に加え、海外企業との戦略的提携や、グローバル人材の採用も視野に入れなければならない。しかし、企業の価値が適切に伝わらなければ、優秀な人材の獲得も難しい。A社はこれまで、Web上での情報発信や、定期的な株主への説明会を通じて、自社の将来の展望や成長性を伝える情報発信に努めていた。しかし、A社は従来の商社業務に加え、顧客のサプライチェーン改善や製造メーカー機能など、多様なサービスを提供している。そのため、複雑なビジネスモデルを簡潔に伝えることが難しく、「品質」や「スピード」など、抽象的な言葉でしか自社の特徴を伝えてこなかったのである。経営陣も以前から、自社の魅力や将来性を十分に伝えられていないことを課題として認識していた。今回、投資家から同様の指摘を受けたことで、この課題により真剣に取り組む必要性を実感することとなったのである。
このような背景から、経営陣は株主向けの情報発信を担当するIR部門に「自社の情報発信を見直せ」という指示を出したが、IR部の担当者も具体的にどうすれば良いか分からず困っていた。そこで、以前から社内向けの広報活動を支援していたJBAに「投資家に成長性や魅力をわかりやすく伝えるにはどうすればよいか」と相談が寄せられた。A社の社内広報を支援していた大畠は、担当者から「自分たちだけでは自社の魅力を言語化するのは難しい、どうしたらいいか」と問いかけを受けた。大畠は即座に「社長にお話を伺いたい」と答えた。なぜA社がここまで成長できたのか。創業以来、どのようなDNAを受け継ぎ、どのような判断と決断を重ねて市場での地位を確立してきたのか。その本質は、一番A社のことを深く、俯瞰的に理解している社長でなければ語れないはず、大畠はそう確信していた。担当者が社長へのヒアリングを設定することはA社では異例であり、担当者は少し躊躇していた。しかし、大畠の意図を理解し、何とか調整してもらった結果、30分程度ではあったが社長へのヒアリングが実現した。
経営陣すら巻き込み、企業の価値を言語化する
「自分の子供に会社の説明が出来ない」社長の言葉から知った企業の実態
30分という短い時間の中、最初、社長はほとんど本音を話してくれなかった。「JBAさんの言う通り、企業ブランディングは課題だ。企業価値向上のためには不可欠だと思う。」大企業の社長が、よく知らない企業相手に興味を示さないのは、A社に限らず一般的なことであった。しかし、大畠は今までの支援を通じて、A社が社会にとって不可欠な企業であることを理解していた。モノづくりの根幹を担う某メーカーの工場運営や、世界的にも名高い小売り企業のサプライチェーンは、A社のビジネスがなければ成り立たないという事実を、過去の取材で知っていたのだ。そんなA社の価値を何とか発信したいという一心で、大畠は社長への質問を続けた。残り5分となった時、大畠はまっすぐ社長に伝えた。
「御社が世の中になくてはならない企業であることは深く理解しています。私たちは、御社の価値を社会に伝えるお手伝いをしたい。」真剣に質問し続ける大畠の熱意に負けたのか、社長は終了直前に胸の内を語り始めた。「昔、自分の子供に『お父さんの会社は何をしているの?』と聞かれたことがある。正直、うまく説明できなかった。」続けて、「目の前の経営に必死で、お客様の課題に応え続けてきた。その結果、気付けば会社はここまで大きくなっていた。ブランディングや魅力の伝え方はあまり考えてこなかったが、今の時代、それではまずい。私の責任だと感じているが、どうにかしないといけない」と、赤裸々に語ってくれた。「必ず御社の魅力を分かりやすく伝えます。」そう強く宣言し、社長ヒアリングを終えた。
大畠は、翌日すぐにJBA社内の経営会議でA社の件を議題に挙げた。「A社の未来を創る支援になる。全社的に注力して取り組んでいきたい」この案件の重要性を踏まえ、JBA社内で更なるディスカッションを重ねることになった。商社の業界構造に詳しいコンサルタントや、グローバル企業の支援実績を持つメンバーなど、多様な知見を持つ社内のメンバーとの議論を深めていった。加えて、大畠は、A社のみならず、類似の専門商社のビジネスモデルなど、業界構造も含めたリサーチを更に重ねた。その中で見えてきたのは、創業以来100年以上にわたり、様々な業界の課題解決に携わってきたA社の姿である。その過程で事業領域は大きく拡大し、ビジネスモデルも進化を遂げてきた。もはや「商社」という言葉だけでは語れない独自の価値を持っているはずだ。しかし、その本質を理解するには、A社の歴史とともに歩んできた経営層の視点が不可欠だった。そこで大畠が次に提案したのは、A社の役員会議への同席だった。「A社の魅力の再定義は、もはや経営課題です。役員それぞれが持つA社への理解を直接聞かせていただきたい」役員会議に外部の人間が同席するのは前代未聞であり、担当者はためらった。大畠の熱意に押され、上司等に掛け合って頂くことによって、最終的に同席が許可された。
計2時間、役員を交えたディスカッション
JBA社内としても、お客様企業の役員会議に参加するのは初めてのことだった。ここで不用意な発言をすれば、JBAの信頼にも影響する。大畠はA社の歴史、ビジネスモデル、未来の戦略、競合他社を徹底的に調査した。A社の社史や、A社が過去発信したニュースリリース、業界の競合情報にいたるまで、A社に関連するあらゆる文献を読み込んだ。そして、A社の事業展開の歴史とこれからの未来を時系列順に整理し、A社の魅力について他のメンバーとも話し合い、役員会議でぶつける仮説を出しあった。
土日も返上して行われた議論は夜遅くまで及んだ。商社のビジネスモデルや収益構造について、また製造業や小売業など他業界での企業価値の定義事例についても検討。メンバーそれぞれが持つ知見や経験を出し合いながら、議論は深まっていった。役員会議前日、大畠は改めてJBA社内で会議を設定した。これまでの議論を踏まえ、明日の役員会議に向けて最終的な準備を整えていった。
社外取締役を含めた総勢15名のA社役員陣の前で、大畠はファシリテーターとして進行を務めた。「これからのA社にとって、『自社をどう再定義するか』は非常に重要な課題です。ぜひ皆さんの考えるA社について、思いをお聞かせください。」ある役員は、「我が社の競争優位性は人財にあり、創業以来からずっと、人財の力を誇りに思っている」と語った。また、別の役員は、「A社の要である品質力を土台とした実績の積み重ねが、事業領域や市場を拡大していった」と、会社の歴史を振り返った。順番に役員たちに問いかけていったが、彼らの発言はどれもバラバラで、共通した意見は得られなかった。最後に社長が発言し、「お客様の期待に私たちは応え続けてきた。その結果が、今の事業に繋がっている。お客様の信頼なしに、私たちの事業は語れない」と語った。会議を終えた役員たちからは「初めてこんなことを考えたが、よく整理できた」という声もあがった。しかし大畠の中では、何か重要な要素が抜け落ちているような違和感が残った。それぞれの役員が語った「人財」「品質」「お客様」。確かにどれも重要な要素だが、これだけでA社の価値を語り切れているのだろうか。
「貴重なご意見をありがとうございます」と告げ、大畠はJBAへと帰社。ひとまず、議事録をチーム内で共有し、発言内容の整理を開始したが、頭の中のモヤモヤは晴れないままだった。そんな中、プロジェクトメンバーの一人であるインターン生がふと疑問を口にした。「海外展開について誰も話していないのは、どうしてですか?」そのインターン生は、A社のグローバル展開について深くリサーチしていた。既に1,000人規模の海外従業員を抱え、海外売上比率も30%を誇るにもかかわらず、役員たちは誰も海外の成長性について触れていなかったのだ。後日、大畠はその疑問を担当者に確認した。担当者に調査を依頼したところ、現地に行ったことがない役員が多く、海外の情報が経営層にほとんど共有されていないことが明らかになった。
企業の価値を
あらゆる方面に伝えたい
海外のリアルな声から徐々に見えてきた企業の魅力
「役員もなかなか忙しく、海外に視察に行く暇もないようです」担当者はそう答えた。グローバルでの成長が著しいにもかかわらず、役員が海外の実態を把握していない。これではA社の魅力を定義することは難しいと感じた大畠は、担当者に問いかけた。「もし役員が海外視察に行く時間がないなら、私たちが代わりに行かせてもらえませんか?」JBAからの度重なる依頼に担当者は困った表情を浮かべたが、「一度社内で検討してみます」と返事をもらった。数日後、担当者から大畠に一本の電話があった。「たまたま社長に相談できるタイミングがあって、聞いてみたら『ぜひ行かせてあげてくれ』と言われました」。こうして、特にA社が注力している中国とインドの子会社への取材が決定した。JBAでの海外取材の経験は数件ほどしかなく、大畠自身も英語が得意ではなかったため、プロジェクトチーム内でどのように進めるか相談を行った。「海外に行くなら僕も行きたいです」。先日疑問を投げかけたインターン生が大畠に申し出た。そのインターン生は海外留学経験があり、英語もある程度話せた。「ぜひ一緒に行こう」と大畠は彼の同席を決めた。
現地では、海外拠点の社長や従業員、さらには国外のお客様企業に至るまで、2か国で合計17名のキーマンにインタビューを行うことができた。そこから見えてきたのは、海外におけるA社の高いプレゼンスだった。A社が海外でも日本クオリティを実現していることは、現地の主要企業からも絶賛されていた。
滞在中、大畠はインド子会社の社長と3日連続で夕食を共にし、毎回1時間以上にわたる対話を重ねた。そこでは「インドと日本では社員のエネルギッシュさが根本的に違う」といった現地のリアルな話から、今後のM&A戦略など経営に関する話題まで、率直に教えてもらうことができた。取材最終日の会食で、インド子会社の社長はこう話した。「正直、海外戦略なんて、あってなかったようなものです。日本のお客様が『海外に進出したい』と言うのでお手伝いしていただけでした。気がついたら、我々自身がグローバル企業になっていたんです」。
2週間にわたる現地視察を終え、大畠たちは日本に戻り、プロジェクトチームで再びディスカッションを行った。そして、その議論の末、最終的な結論にたどり着いた。「確かにA社の事業は一貫した定義では捉えにくい。しかし、『社会や世の中に必要とされることをやり続けている』という点では一貫している」と大畠は仮説を共有した。その後、大畠は担当者に「15分でいいから、もう一度だけ社長の時間を頂けないか」と依頼した。社長の了承を得た大畠は、再度面会し、JBAの結論を伝えた。「今までは、御社の将来像を一言で定義することにこだわっていました。しかし、御社の魅力は、目の前のお客様の悩みに答え続けていくこと。その先に御社が成長する将来があるのだ。」と語り、大畠はA社の広報戦略を提案した。「あらゆる媒体を通じて、A社が手がけるプロジェクトや社員の姿を紹介し、『社会や世の中に常に必要とされる企業』であることを伝えていきます」と力強く述べた。社長はその提案に深く納得し、「ここまで自社を深く理解してもらったことは今までなかった。ぜひこの戦略を進めてほしい」と感謝を述べたのであった。
投資家だけなく、学生・社員にも魅力が伝わる情報発信を
大畠の主導により、A社の広報戦略のリニューアルが開始した。株主向けのレポートである統合報告書の刷新のみならず、コーポレートサイトもリニューアルすることに決まった。株主・投資家に向けて、これまで「単なる商社」と認識されがちだったA社のビジネスモデルを、製造機能を持つ独自性ある企業として再定義し、言語化した。さらに、海外事業についても、地域ごとのニーズに合わせた紹介方法へと全面的に刷新した。さらには、社員に向けた情報発信の改築も行った。今まで既に支援していた社内広報を大幅にリニューアル。これまで役員にさえ十分に伝わっていなかった情報を積極的に共有し、A社がグローバルカンパニーであることの認識を深め、社員の間で自社に対する誇りが醸成されるような取り組みを行なった。
そして、キーとなるのは、独自メディアの構築であった。どうしても既存のメディアでは、情報発信のテーマが縛られてしまう。今までのヒアリングでお聞きしたプロジェクトや、活躍されている社員の情報を、あらゆる切り口で発信したい。そのためには、新たなメディアが必要不可欠だと感じたのだ。元々、A社がJBAに相談した際には、このようなメディアを新たに作る予定はなかった。しかし、「あらゆる角度でA社を伝える」ことがA社の情報発信のキーとなると確信していた大畠は、強くメディア構築の重要性を提案し、今回作成することに決まった。
リニューアルを進めている最中、人事部から大畠に声がかかった。A社の本質や魅力を深く理解したJBAだからこそ、採用面でも支援してほしいという相談だった。「弊社の強みを最も理解しているのは、今やJBAさんかもしれません。ぜひ採用戦略についても一緒に考えていただけないでしょうか」人事部の担当者は、A社が抱える採用の課題を語った。優秀な人材の確保が難しく、特に若手社員の早期離職が問題になっているという。大畠は、JBAの採用チームと連携しながら、競合の専門商社の学生に向けた情報発信の事例をリサーチした。そして、具体的な施策の第一歩として、まずは採用サイトのリニューアルから着手することが決定した。これを足がかりに、採用戦略全体の見直しへとつなげていく計画だ。
当初の依頼は「株主向けの統合報告書の見直し」という5000万円規模の案件だった。しかし、投資家・社員・採用と、すべてのステークホルダーに向けた情報発信の見直しへとスコープが拡大。最終的には2億円規模のプロジェクトとして承認されるに至った。A社の本質的な価値を、それぞれの対象に最適な形で伝えていく——その重要性が、経営層にも深く理解されたのだ。
ブランド価値を再定義し、
伝えることが、
企業の成長に繋がる
社会にとって必要不可欠でありながら、魅力を伝えきれていない企業は他にも数多く存在する。JBAは、こうした企業の価値を深く理解し、その価値を再定義し、発信を支援することが、日本経済の成長に寄与すると確信している。今後も、大畠たちはさまざまなプロジェクトに伴走し、A社の価値提供をさらに加速させていく。従業員5,000人、海外売上比率30%を誇るA社が、より大きなグローバル企業へと成長するためのサポートを続けていく決意である。
これこそが、我々が目指すブランディングの姿である。単なる表面的な印象操作ではなく、企業の本質的な価値を多角的に捉え、それを適切に伝えることで、すべてのステークホルダーにとって魅力的な企業像を構築する。このアプローチこそが、A社のような複雑な事業構造を持つ企業の真の姿を社会に示し、持続可能な成長を実現する鍵となるのだ。