経営に潜り見つけた企業価値。
全ターゲットに届ける情報発信戦略
大畠 吉裕 Obatake Yoshihiro
Summary
従業員5,000人、創業100年を超える老舗企業。国内の輸送事業からスタートし、エネルギーや建設分野など多数の事業を展開。今では海外売り上げ比率30%を誇るグローバルな専門商社に成長した。発展を続けるB社だったが、課題もあった。「企業の正しい魅力を発信できていない」。事業の魅力や将来性を外部に対して分かりやすく発信出来なければ、企業のファンが増えず、今後の成長に繋がらない。
JBAはB社の魅力、“本質的な価値”を探るため、経営層や海外拠点への取材を敢行。そこから大きく2つの施策が見えてきた。「一貫したブランド価値の再定義」「包括的で多岐に亘る情報発信戦略」。当初5,000万円規模だった案件は、2億円規模まで拡大。グローバル企業の本質的な価値を掘り起こし、持続的な成長への道標を示した事例を紹介する。
誰も定義できていない
企業の魅力を伝えたい
「企業の魅力が分からない」複雑化した企業活動が生んだ成長を阻む壁
ある投資家の指摘から、B社は自らの課題に気づかされた。「御社はさらに拡大する可能性を持っている。でも、その成長性や独自性が外部からは見えにくい」「企業の魅力が分からない」。外部、つまり株主からも魅力的な投資先に見られにくいことを意味していた。資金調達力を高め、成長を加速させるためには、情報発信のすべてを見直す必要があった。
実際にB社は、商社としての業務に加え、鉄鋼、化学、環境などの事業を展開。プラント建設では、設備設計から製造・調達、建設、さらにメンテナンスまでの一貫した施工体制に取り組み、グローバル事業も急拡大していた。しかし、多彩な事業を行う複雑なビジネスモデルにより、事業内容や成長性が分かりやすく伝えられないでいた。経営が順調だったが故に、経営陣にも見過ごされてきた課題だった。
そんな背景から社内広報支援を担当していたJBAへ、相談が寄せられた。担当したのは、入社5年目の大畠。以前からB社のプロジェクトを担当し、潜在的な魅力まで理解していた。
役員会議に参加し、
経営陣が考える企業価値を探る
経営陣が考える企業価値を探る
社長すら伝えられない企業の“核”
偶然にも大畠は、相談直後にB社の社長インタビューを控えていた。大畠は、「情報発信について課題を感じますか」と、率直に聞いた。社長は「昔、子どもに『お父さんの会社は何をしてるの?』と聞かれたとき、うまく説明できなかった」と、切り出した。「お客様の課題に応え続けて、気が付けばここまで大きくなっていた。目の前の経営に必死で、自社を誰かに伝えるということを考えられていなかった。今の時代、まずい。私の責任だ」。
大畠は、驚いた。社長の言葉通り、「まずい」。企業は、お客様や投資家、あらゆるステークホルダーの目に留まる必要がある。ましてB社は海外売り上げを順調に伸ばしている会社。海外からの注目も高い。社長ですら自社の魅力を語れないことは、緊急性を示していた。大畠は、翌日すぐにJBAの経営会議に挙げた。「B社の成長戦略を伝えるための重要プロジェクト」として、商社はもちろんグローバル企業支援の経験豊富なメンバーをアサインすることを決めた。
プロジェクトメンバーは手始めに、B社の事業内容に加え、関係する業界構造や競合先約30社を分析。似たようなビジネスモデルやサービスを展開している企業は競合にはなく、商社でありながら製造機能を持つB社は、特異な存在だった。しかし、投資家の購買欲を誘うには物足りなかった。事実の羅列を超えた何かが、必要だった。そのためには、今までのB社の歴史を深く知る経営陣が何を強みと考え、どこに成長機会を見出しているのか。その視点こそが、事実と事実をつなぎ、外部へ見せられる、魅せる成長ストーリーとなる。大畠は、“その視点=成長戦略の核”を探した。
「役員会議に同席したい」。大畠は、前代未聞の提案をした。経営陣が、B社の強みや成長をどう捉えているのか。会社の方針とも言える役員達から、一人一人の考え、言葉が聞きたかった。当初B社は難色を示したが、熱意に押され、ついに役員会議への参加が認められた。
2時間に及ぶ役員15名とのディスカッション
話題に上らなかった主要事業
不用意な発言をすれば、一瞬でJBAの信頼が揺らぐ。大畠にとって、これまでにない程の重さを感じる仕事だった。限られた時間のなか、他のメンバーと土日返上で議論を重ねた。質問や返答、再質問の仮説を立て、何度もシミュレーションをしたり、メンバーそれぞれの持つ知見や経験を出し合ったりした。役員会議に向けての準備が整っていった。
役員会議、当日。社外取締役を含めた総勢15名の役員陣へ、大畠は投げかけた。「『自社をどう再定義するか』。これからのB社にとって非常に重要な課題です。皆さんの思いを聞かせてください」。ある役員が答えた。「“人財”に競争優位性がある。創業からずっと、社員の力を誇りに思っている」。別の役員は、「品質力を土台とした実績の積み重ねが、事業領域と市場を拡大していった」。
2時間に亘って多くの役員が応じてくれたが、発言はどれもバラバラ。共通したB社の強みは見えてこなかった。役員会議の最後、社長が価値観について言及した。「お客様の期待に応え続けてきた。それが、今の事業領域に繋がっている。お客様の信頼なしに、私たちの会社は語れない」。
会議後、役員からは「初めてこんなことを考えた」「自分自身でもよく整理できた」という声も上がった。役員それぞれも、自社の強みに異なる視点を持っており、一致した答えは得られなかった。しかしこの日、B社の成長と競争優位性は明確になった。…ただ、ある事業が話題に上ることは一度もなかった。
インド・中国視察へ
同行。
海外事業の
リアルを集め、
社内共有へ
現地社長が語った、国外での存在感。
見えてきたB社の“真の魅力”
プロジェクトチームと役員会議の内容を精査した。あるメンバーが、役員会議中、海外事業に触れられていないことに違和感を覚えた。B社は既に、1,000人以上の海外従業員を抱え、海外売り上げ比率は30%超。にもかかわらず、経営層の多くが海外事業についての視点を欠いている可能性を示唆していた。
大畠は、B社にその違和感をぶつけた。「現地に行ったことのない役員が多い」「経営層に海外の情報をほとんど共有されていない」――驚くべき回答だった。海外事業は、今後の成長の軸でもある。だが、役員の多くが海外の実態を把握しきれていなかった。これでは、B社の今後を創る“今”の魅力を定義することは難しかった。大畠は、B社にある提案をした。「私たちを海外へ行かせてほしい」。役員会議への参加に続き、JBAからの驚きの提案。当時、担当者は困った表情を浮かべ、「保留」とした。数日後に電話が鳴った。「ぜひ行かせてあげてくれ」。社長からの伝言を知らせる電話だった。
海外視察は2週間。行き先は、インドと中国の子会社に決まった。B社が特に注力している地域だ。視察では、現地の経営者や従業員、さらに取引先企業に至るまで2か国17名にヒアリングすることができた。17名に共通していたのが、“海外でのB社の高い存在感”だった。海外でも日本品質を実現していることが、現地の社内外から絶賛されていた。
滞在中、大畠はインド子会社の社長と、3日連続で夕食を共にした。ディナーミーティングとして活用し、毎回1時間以上の対話を重ねた。話題は、社長談の「日本とは社員のエネルギッシュさが根本的に違う」といったリアルな話から、今後のM&A戦略など経営に関するものまで様々だった。
最後の夜は、一番驚いた話があった。「正直、海外戦略なんて…あってなかったようなもの。日本のお客様が『海外進出したい』と言うから、お手伝いしただけ」。ここまでの大企業が、「気が付いたら自社もグローバル企業になっていた」と言うのだ。
投資家、取引先、社員、学生。
届ける相手ごとに、より響く情報発信を
B社の強みに溢れた情報が、ようやく集まった。帰国後の大畠たちは、すぐ言語化に取り組んだ。B社の強みが、魅力が見える形になり、社長との面会を再度取り付けた。新たな広報戦略の提案だ。「あらゆる媒体を通じ、B社のプロジェクトや社員の姿から『社会や世の中にいつも、いつまでも必要とされる企業』だと、伝えていきます」。「自社をここまで理解してもらったことはなかった…」と、社長から感謝の言葉が贈られた。
B社の広報戦略が、本格的に動き出した。企業HPや、株主や投資家に企業の長期的なビジョンを伝える統合報告書を刷新し、独自のビジネスモデルを生かしたB社にしかできない社会貢献性を強く訴求した。また、海外事業も、具体的なプロジェクトも含めて掲載し、将来性を描けるような発信へと改めた。社内広報も一新し、海外事業などこれまで役員にも十分に伝わっていなかった最新の情報を積極的に共有。グローバルカンパニーとしての意識と誇りを、会社全体で高めていく取り組みを展開した。
更に、企業の新たな情報発信基盤として『更新型Webメディア』の構築にも着手した。従来の企業サイトや社内報では、掲載できる情報量に制限があり、現場の生きた声やプロジェクトの進行過程、社員の日々の挑戦といったリアルタイムの情報を十分に伝えきれない。そこで、ブログ形式での情報発信プラットフォームを提案。当初の計画にはなかったものの、大畠の強い提案により、B社独自のメディア構築が決定した。
メディア構築を進めていく中で、人事部から採用支援の声がかかった。日頃から現場を取材し、社員一人ひとりと向き合ってきたことで「当社のことを最もよく理解しているのは、今やJBAです」と評価をいただいたのだ。採用では、若手社員の早期離職という課題を抱えていた。「採用時のイメージと実際の仕事にギャップがあるのではないか」。そう考えた大畠は、JBAの採用支援チームと力を合わせ、まずは採用サイトのリニューアルに取り組むことにした。
情報発信“すべて”を見直し、
多角的に魅力あふれる企業へ
当初の依頼は、『株主向け情報の見直し』という5,000万円規模の案件だった。役員会議への参加や海外拠点の視察を通じて、私たちのB社理解は深まっていった。「自社をここまで理解してもらったことはなかった」という社長の言葉を契機に、投資家・社員・求職者・取引先など、すべてのステークホルダーへの情報発信へと領域を広げることになった。この提案に経営層の共感を得て、最終的には2億円規模のプロジェクトへと発展したのである。
B社との関わりは始まったばかりだが、価値提供をさらに加速させていく。従業員5,000人、海外売上比率30%を誇るB社が、より大きなグローバル企業へと成長するためのパートナーとして伴走し続ける決意である。
社会や多くの人に、今もこれからも必要とされる企業はたくさんある。ただ、魅力を伝えきれていない企業もたくさんある。JBAは、こうした企業の価値を深く理解し、見える形にして発信することが、日本の成長に寄与すると確信している。
私たちが目指すブランディングの姿。それは、単なる表面的な印象操作ではない。企業の本質的な価値を捉えて、効果的にすべてのステークホルダーに伝える。それが、魅力的で多角的な企業像を構築する。これこそが、B社のような複雑な事業構造を持つ企業の持続可能な成長を実現するカギとなる。