Project story 02

組織活性化・DX 物流

6万の声を、一つの力に。
情報発信の改革で
現場と経営をつなぐ

田中 日菜 Tanaka Hina

お客様情報

従業員数6万人の物流企業B社が直面していた課題は、ドライバーの離職率上昇と社内コミュニケーションの断絶だった。JBAは、経営層から現場まで120名という大規模なヒアリングを実施。その結果、新サービスの情報が現場に届いていない、ドライバーが孤立している、経営層の期待が現場に伝わっていないなど、深刻な課題が見えてきた。
JBAは解決策として、全社員が利用できる社内専用アプリを開発。職種や役職に応じた最適な情報配信、ベテラン社員の経験共有、キャリアパス紹介など、現場のニーズに応える機能を実装。その結果、社員の満足度が向上し、現場と経営層の相互理解も深まった社内コミュニケーションの改善と社員エンゲージメント向上支援事例を紹介する。

社内コミュニケーションの 断絶を解消したい

企業の成長を阻む社内コミュニケーションの改善

B社は、物流企業として全国に80か所の営業所を構え、全従業員6万人の60%がドライバーである。そんなB社が今、企業の持続的な成長に向けて大きな転換点を迎えていた。物流会社としての更なる付加価値向上のために、ドライバーには、もはや単に荷物を届ける役割に加え、お客様の声を吸い上げ、新たなサービスを提案し、事業変革の担い手としても活躍することが求められている。しかし実際のところ、新サービスの情報さえ現場のドライバーに十分に伝わっておらず、お客様からの問い合わせに対応できないケースが相次いでいた。

このような状況に加えて、ここ数年で深刻化しているのが離職率の高まりだ。労働環境の悪化や、転職が一般的な選択肢となっている現代社会の影響もあるが、根本的な問題として浮かび上がってきたのが、社内コミュニケーションの断絶である。特に、現場でシフト制で働くドライバーたちは勤務時間がバラバラであり、多くの時間を営業所の外で過ごしている。そのため、他の社員と顔を合わせる機会がほとんどないのが現状だ。運送量の増加や人手不足によって現場は非常に多忙を極め、他の社員と会話する機会は1日に1、2回あれば良い方だという。さらには、会社からの情報発信も月に一度配られる社内報か、不定期に発行される会社からのお知らせ文書に限られている。それらも、営業所に平積みされたり、掲示板に雑に張り出されるだけで、ほとんど読まれていない状況であった。この結果、社員たちは日々の業務に集中しているため、社内で何が起こっているのかも分からないまま、不安感を抱えつつ孤独に働いていた。もしこのまま離職率がさらに増加し続ければ、事業運営に致命的な影響を及ぼしかねない。さらに、「2024年問題」により、ドライバーの稼働時間に制限がかかり、加えて採用環境も一段と厳しさを増している。B社にとって、離職率の増加を抑制し、社内のコミュニケーションを改善することは、事業の持続的成長を維持するための喫緊の課題であった。こうした状況を受け、B社の経営陣は広報部に社内コミュニケーションの改善を指示した。しかし、広報部自体も全社の状況を把握しきれておらず、ドライバーが抱える問題をある程度は認識していたものの、実態は掴めていなかった。加えて、情報発信手段が月1回の社内報に限られているため、どのようにして効果的に情報を届けるか、その方法が見つからない状態にあった。このような背景から、B社からJBAに相談が入った。

B社の担当を引き受けたのは、社内コミュニケーション改革の経験があるJBAの田中だった。「正直申し上げて、改善の糸口が見えないんです。どうすれば良いのか、ぜひお知恵を拝借したい」と、B社広報部の担当者は切実な声を上げた。だが、数万人規模の社内コミュニケーション戦略の構築は、JBAにとっても初めての挑戦だった。田中は、担当者から状況を詳しく聞き取ったうえで、すぐにJBA社内で会議を開いた。過去のプロジェクト実績を基に議論を重ねた結果、「予算以上のリソースをJBA側の負担で持ち、徹底的な現状把握を行う」という結論に達した。ドライバーだけでなく、きっと全社員がコミュニケーションに関する何らかの課題を抱えているはずであるため、JBAとしても現場の実態をしっかり把握しなければ、的確な支援は難しいと判断した。会議の数日後、田中はB社の担当者に提案を持ちかけた。「ドライバーの皆さんだけでなく、仕分け担当者や管理職、できれば経営層の方々のお話も伺えないでしょうか」。その提案に対し、担当者は驚きの表情を浮かべたが、田中は続けた。「根本的な課題解決には、全社の生の声を聴くことが不可欠です。表面的な対処ではこの問題は解決できません」。田中の熱意が伝わり、最終的には担当者から前向きな返事を引き出すことができた。こうして、経営層から現場まで、総勢120名に及ぶ大規模なヒアリング調査が実施されることになった。

現場を知った上で、経営層の声を繋げる

現場のドライバーのヒアリングから得られたリアルな不安と孤独

最初にヒアリングを開始したのは現場のドライバーだった。各営業所を周り、合計30名ほどのドライバーに、忙しい業務の合間を縫ってヒアリングを実施した。そこで見えてきた実態は、予想以上に深刻なものだった。「実は新サービスの開始を知ったのは、お客様からの問い合わせが初めてだったんです」と、あるドライバーは驚きを隠せずに話した。これによって、現場における情報共有の大きな課題が浮き彫りになった。確かに、新サービスの導入に関する告知文書は配布されていた。しかし、現場の多忙な状況では、そんな文書に目を通す余裕すらなかったという。また、ドライバーたちの孤立も大きな課題として見えてきた。

ある若手ドライバーはこう語った。「マニュアルには載っていない判断に迷うことが、毎日のようにあるんです。でも、上司と話す機会もないし、ベテランの先輩との雑談すらままならない。きっと全国の仲間は同じような悩みを抱えているはずです。彼らはどうやってこの問題を解決しているのか、その経験を知りたいんです」。こうした悩みは、他の営業所の仲間との交流や情報共有が極めて少ないため、どう解決すればいいのか分からずに深刻化していた。また、将来への不安も大きな課題だった。別の若手ドライバーは自身のキャリアについてこう話す。「自分自身がこれからどういうキャリアを歩んでいくのか。ロールモデルにできる先輩も周りにいない。何歳で何をしたらどうなれるのか、全くビジョンが見えないんです」。キャリアの見通しが立たないことは、ドライバーたちの仕事へのモチベーションや未来への不安をさらに大きくしていた。

現場の課題は、営業所の仕分け担当者たちにも共通していた。ある仕分け担当者は業務上の問題をこう指摘した。「お客様から納期のトラブルについて問い合わせがあっても、適切な回答ができないんです。自分の作業の前後の工程が見えない。荷物がどういうルートでお客様の手元に届くのか、その基本的な仕組みすら把握できていません」。これにより、現場では日々の業務に追われる一方で、物流の基本的なプロセスすら把握されていないという重大な問題が明らかになった。さらに、営業所を管轄するマネジメント層も「他の営業所がどうやって現場を回しているのか、本当に知りたいんです。でも、知る術がない。私たちのやり方が正しいのかどうか、不安で仕方ありません」と、不安を吐露した。このヒアリングを通じて、表面的なコミュニケーション不足だけでなく、業務の基本となる物流の仕組みさえ現場に十分に共有されていない実態が明らかになった。

現場に届かない経営層の期待

次に、経営層10名に対してヒアリングを実施した。ここで見えてきたのは、現場への期待と現実との大きなギャップだった。「これからの時代は付加価値が大事になります」と営業担当役員は語る。「ドライバーには配送業務だけでなく、新たなサービスをお客様に積極的に紹介するなど、営業職のような立ち回りで顧客への価値を創出してほしい」と、ドライバーに期待する役割を明らかにした。しかし、現場の実態を伝えたとき、役員たちの表情が変わった。「そもそも新サービスの存在すら知らない」というドライバーたちの声を聞き、経営層の期待と現場の実態との大きな乖離を、役員たちは初めて認識したのだ。

さらに、物流事業本部長も現場への期待を具体的に示した。「現場は情報の宝庫です。例えば、お客様が競合他社のどんな配送サービスを使っているのか。当日配送のニーズはあるのか、配送時間の指定に関する要望はあるのか。そういった現場でしか得られない情報がなければ、次の一手が打てません」。しかし、こうした経営層の期待に反して、現場のドライバーからの情報共有はほとんど行われていなかった。3年前に数億円をかけて導入した情報共有システムも、現場からの情報入力は月平均でわずか数十件程度にとどまっていた。

注目すべき点は、経営層が期待する「現場からの情報吸い上げ」について、ヒアリングを行った30名のドライバーは一人も言及していなかったことだ。経営層は、顧客先での競合情報やニーズの把握を重要視していたが、その期待は現場にはまったく伝わっていない実態が明らかになった。このヒアリングで浮き彫りになったのは、現場と経営層の間にある深い認識の差だった。現場は日々の業務に追われ、基本的な情報さえ十分に得られない状況にあり、一方の経営層は現場からの積極的な情報提供を期待している。しかし、双方向のコミュニケーションが機能していないため、その期待や思いは互いに届かず、すれ違いが続いていたのだ。

一人一人に
必要な情報を届けるために

情報インフラの構築のために。"アプリ開発"というソリューション

B社へのヒアリング結果を受け、当初の依頼内容であった「社内報の刷新」では、根本的な課題解決には至らないことが明確になってきた。数万人の社員、数十に及ぶ職種。それぞれが求める情報は大きく異なる。ドライバーは日々の業務に関する情報や、同じ悩みを持つ仲間との繋がりを求めている。一方、営業所の管理職は他拠点の運営ノウハウを知りたがっている。さらには経営層は、現場からの情報吸い上げを期待している。これらの課題に対応するためには、一方通行の情報発信では不十分だ。個々の社員に最適化された情報を届け、双方向のコミュニケーションを可能にする。いわば、情報インフラの構築が必要だった。

加えて、B社では一人1台パソコンを支給される環境でもないため、Webでの社内報も現実的ではない。全員が日常的に目に触れるもので、アクセスされやすいもの。そう考えていくと、携帯のホーム画面に表示され、常に目にとまりアクセスしやすい"アプリ"が最適だ、という結論に至った。しかし、JBA社内においても、数万人を対象としたアプリ開発の経験はなかった。アプリ開発と口で言うのは簡単だが、通常のアプリ開発とは違い、ターゲットにカスタマイズされた情報を届けるだけでなく、社内の機密情報を扱うため、セキュリティの強化が求められるなど、様々な課題があった。しかしながら、お客様への価値提供のためにも、この挑戦を実現すべきだと考えた。

田中は、他社でアプリによる情報プラットフォームを実現している企業の事例を調査し、どのようにそれを達成したのかを学んだ。それだけでなく、実際にアプリ開発を手掛けた外部のシステムエンジニアやアプリ開発の経験者にもアポイントを取り、技術的な助言を得た。こうしてB社に対する提案を固め、その案を担当者に伝えたところ、予想以上の賛同を得て、アプリ開発が正式に決定した。

写真

前例のないアプリ開発により双方向のコミュニケーションを実現する

アプリ開発の際も様々なハードルが立ちはだかった。社内に、このようなアプリ開発を手掛けた事例はなく、技術面での不安は大きかった。田中は、大規模アプリの開発経験を持つ複数のシステムエンジニアと協議を重ね、セキュリティの確保や情報の最適化配信といった技術的課題の解決方法を探った。また、効果的な情報発信の方法についても、企業向けアプリの開発実績を持つコンサルタントに相談。利用者の行動分析や、コンテンツの見せ方など、具体的なアドバイスを得ながらアプリの設計を進めていった。

完成したアプリには、ヒアリングで明らかになった各層のニーズに応える情報が体系的に整理された。ドライバーからは「仕事の相談先がない」という声が多かったことから、ベテランドライバーの業務上の工夫や、困難を乗り越えた経験を紹介するコーナーを設置。また、「自分のキャリアが見えない」という不安に応えるため、様々なキャリアパスを歩む先輩社員のインタビュー記事も豊富に掲載した。現場からは「業務の全体像が見えない」という課題も挙がっていた。そこで、物流の仕組みや工程間の連携について、動画や図解で分かりやすく解説するコンテンツを用意。新サービスの導入手順や安全対策に関する情報も、現場ですぐに活用できる形で提供した。経営層が求めていた現場からの情報吸い上げについては、ドライバーが日々の気づきや課題を手軽に報告できる日報システムを実装。お客様先での観察情報や、現場で感じた改善点を、その場で入力できる設計とした。これらのコンテンツはJBAが継続的に作成・更新し、常に鮮度の高い情報が提供される仕組みを構築。さらに、社員それぞれの役職や担当業務に応じて、必要な情報が優先的に表示される設計とすることで、情報過多による混乱を防ぐ工夫も施した。

Project story02

多くの日本企業が抱える
「コミュニケーションの壁」を解決したい

アプリの導入によって構築したプラットフォームは、ゴールではなくあくまでスタートだった。社員が求める情報を持続的に発信するために、JBAはその後もコンテンツ制作を担当。定期的に機能面の改善も続けることで、アプリの価値を追求していった。
リリースから3か月後、その効果は着実に表れ始めた。「社内からの評判がとても良い。本当に助かりました。」とB社の担当者は語る。ドライバーからは「必要な情報をすぐ得られるようになった」と、経営層からも「現場からのフィードバックが増え、戦略に活かせている」という声が寄せられた。さらに、従業員満足度調査では、社員の満足度が数値的に向上した。

特に印象的だったのは、経営陣から寄せられた「はじめて現場のドライバーと想いが繋がったように思う、もっとこれを続けてほしい」という言葉だ。現場からも、「この先輩ママさんの記事をみて、辞めるのをやめました」「同じ境遇でも頑張っている仲間が、こんなにたくさんいることを知った。元気が出た」という声が届いた。また、「お客さんの感謝の声を初めて知った。自分の仕事が本当にこの地域に役立っていることを実感しました」「社長のメッセージはいつも読んでいる。これまでわからなかったけど、会社がどこを目指しているのかが分かってよかった」といった声からは、社員の意識変化も感じられた。B社からは、このプロジェクトをきっかけにさらなる相談が寄せられるようになった。ヒアリングで確認していた管理職のマネジメント課題に対しては、マネジメント研修の導入を提案し、実施。また、新サービスの消費者向けマーケティングやPRの支援など、アプリでのコンテンツ発信と並行してさまざまな支援をおこなっている。

B社に限らず、多くの日本企業が「コミュニケーションの壁」を抱えているという現実がある。新サービスや業務ナレッジ、キャリアパスに関する情報が断片的にしか伝わらず、社員が会社のビジョンや戦略に共感できないまま働いているケースが多い。JBAは、このような課題を解決し、社員が会社のファンとなり、やる気と誇りを持って仕事に取り組む環境を整えることを目指している。B社での成功事例は、その第一歩となった。

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