Project story 04
採用を超え、未来を育てる。
年間1,100名の採用戦略を
構築する。
鈴木 勇輝 suzuki yuki
お客様情報
従業員12,000人、全国で介護サービスを展開する大手D社から採用サイト改善の相談を受けた。年間1,100人の採用目標に対し半数も採用できない状況が続くなか、鈴木は採用サイトやパンフレットの確認、他社30社の調査、高校の進路指導の先生へのヒアリングを実施。採用サイトだけでは解決できない課題が多く、採用の仕組み自体を見直す必要があると判断。人事部と相談し支援範囲を広げ、地域ごとの採用サイトを新設。高校生向けには親も安心できる情報を、新卒には会社の将来性を、中途には働きやすさをアピール。人事部全体で会社の魅力を再確認するワークショップを実施し、面接官の意識改革も推進。さらに、入社後の育成プログラムまでを視野に入れた支援を展開した。この取り組みにより、エントリー数は増加に転じ、面接後の辞退率も減少。採用数の改善という短期的な成果だけでなく、「採用した人材が確実に活躍できる」という本質的な価値の実現に向けて、新たな一歩を踏み出した大型の採用支援事例を紹介する。
採用難に苦しむ 企業を救いたい
「採用サイトをリニューアルしたい」深刻な人材難に苦しむ介護会社からの相談
介護関連サービスを全国に展開するD社から、「採用サイトのリニューアルをお願いしたい」と依頼を受けた。D社とは5年にわたる社内広報支援の付き合いがあり、その実績を評価されての相談だった。「私たちは年間1,100人の採用目標を掲げているのですが、目標の半数にも届かない状況が続いています。離職率も上がる中、現場の人員配置にも影響が出始めています」と、人事部長は切実な様子で語った。30名体制の人事部は、100社を超える人材エージェントと連携し、様々な採用支援会社の協力も仰ぎながら、新たな求人媒体への出稿や積極的な採用活動を行っていたが、成果には結びついていなかった。
人事部が特に重要な課題だと捉えたのは、採用サイトでの情報発信だった。採用サイトは求職者がほぼ必ず目にする媒体である。現状D社は、新卒向けの採用サイトは存在するものの、中途採用や高卒採用向けの情報は、バラバラな求人媒体への掲載に留まっていた。そのため、まずは、高卒・新卒・中途それぞれに対する情報発信の土台を強化するため、採用サイトの構築に着手することになったのだ。
採用サイト構築に向けて、鈴木は手始めに現状の情報発信の分析から着手した。求職者に向けて、どのような魅力を訴求しているのかを洗い出すため、採用サイトはもちろん、就職情報サイト、広告、パンフレット、会社説明会での発信内容まで、すべての採用関連の情報を丹念に確認していった。その結果明らかになったのは、D社の魅力の訴求ポイントが明確化されていない実態だった。表面的な働きやすさや福利厚生を強調するのみで、肝心の仕事の魅力や働き甲斐、及び企業としてのブランド価値については抽象的な表現に留まっていた。鈴木は社内広報のプロジェクトを通じて、D社の現場をよく知る機会にあった。スタッフの真摯な仕事ぶりや、患者さんとの心温まるエピソードに数多く触れ、D社の持つ本質的な価値を理解していた。これまでD社の現場で見てきた価値ある体験を、きちんとメッセージとして言語化する必要があると考えた。
他社の事例からヒントを調べ上げる
類似業界の徹底的な分析から、魅力訴求のヒントを得る
次に鈴木が取り組んだのは、他社の採用情報の分析だ。似たような企業が、どのように自社の魅力を伝えているのか。そこには必ず参考になる要素があるはずと鈴木は考え、まずは同じ介護業界の企業から調査を始めた。最も重要な課題は「介護業界に対するマイナスイメージをどう払拭するか」だった。各社の採用サイトや求人情報を細かく見ていったが、同業他社でもこの課題を上手く解決している例は見つからなかった。
その課題を社内で共有すると、「介護業界だけでなく、タクシーやドライバー、警備など、同じように採用に苦戦している業界の事例も参考にしてはどうか」とアドバイスを受けた。この提案をもとに、鈴木は分析の範囲を大きく広げ、人材採用に成功している30社ほどの企業を詳しく調べていった。
さらに、あるマネージャーから「ユニクロの採用戦略も参考になるのでは?」というアドバイスも得た。店舗での仕事が中心であるにもかかわらず、高い意識を持つ優秀な学生から強く支持されているユニクロ。その理由を分析すると、「店長」という仕事を単なる店舗の管理者としてではなく、"経営人材"として位置づけていることが分かった。現場での経験を「経営を学ぶ重要な機会」として伝えているのである。
この発見は、大きなヒントとなった。世間一般では敬遠されがちな職種であっても、その仕事が持つ本質的な意義や目的を明確に打ち出すことで、強いブランドを確立できる。それによって、高い志を持つ優秀な人材の採用も可能になるのではないか。介護という仕事にも、同じような可能性があるはずだ。
異なるターゲットごとに、押し出すべき魅力を言語化する
加えて鈴木が考えたのは、採用ターゲットに応じた情報発信の重要性だ。作成予定の採用サイトでは、高卒・新卒・中途それぞれに専用ページを設ける予定である。そしてそれぞれが気にするポイントは大きく異なるため、それぞれのニーズを踏まえたメッセージ設計が必要になる。特に力を入れたのが高卒採用だった。新卒・中途採用と異なり、高校に直接求人票を出すなど、採用プロセスが特殊なためである。そこで鈴木は、リアルな声を聴くために、人事部の担当者に頼み込み、関係の深い高校の進路指導の先生との面談の機会を設けてもらった。
「最近の生徒は安定志向が強く、大手企業志向です。でも、実は親の判断の方が重要なケースが多いんです」と先生は語った。面談を重ねるうちに、高校生と親では重視するポイントが大きく異なることが分かってきた。生徒は「かっこいい仕事なのか」「大手企業なのか」「友達に自慢できる仕事なのか」を気にする一方で、親は「長く働ける安定した職場なのか」「体調を崩さず安全に働けるのか」「将来性のある仕事なのか」といった点を重視していた。この発見が参考になったのが、ある物流大手企業の採用手法だ。同社は高校生向けの採用サイトで、一見すると若者向けの会社説明動画を載せていたが、実は親に向けた内容になっていた。「物流の仕事で成長した息子を親が見守る」というストーリーで、親の不安を解消し、安心感を与える工夫がされていたのである。
新卒・中途採用については、それぞれのターゲットに応じた情報発信の方法を検討した。新卒向けには会社の安定性や事業の多様性を、中途向けには充実した研修制度や柔軟な勤務体系を中心に訴求することにした。このように、採用の種類ごとの特徴を踏まえ、それぞれの対象に最も効果的な情報の伝え方を作り上げていった。
採用サイトの改善だけでは解決できない。本質的な課題に向き合う
様々な分析を通じて、採用サイトの企画を練り上げていった。しかし、鈴木の中で違和感が大きくなっていった。採用サイトの改善だけでは、情報発信の改善にとどまり、選考フローや面接プロセスなど、採用活動全体を見直す必要があったからだ。
「この度の採用サイト改善は、より大きな課題に向けた第一歩だと考えています。御社の採用全体の成果を上げるために、より包括的な支援をさせていただけないでしょうか」鈴木からの提案に、人事部長は「ぜひお願いしたい。採用全体の見直しは私たちも課題だと考えていました」と即座に快諾した。
まず着手したのは、採用コストの総合的な分析だった。100社以上の人材エージェントへの手数料、複数の求人媒体への掲載料、全国での説明会の運営費用など、採用関連費用を細かく精査していくと、その総額は年間数億円に達していた。これほどの投資をしているにもかかわらず、採用目標は未達成の状況が続いていた。同時に、採用プロセスの詳細な分析も実施した。各人材エージェントを通じた採用の実績、求人媒体からの応募件数、説明会参加者の最終的な採用までの割合など、それぞれの取り組みの効果を数値で検証していった。さらに、応募者の動向分析にも取り組んだ。どの経路からの応募が多いのか、面接や説明会のどの段階で応募をやめる人が多いのか。応募から内定までの過程を一つ一つ丁寧に追跡していった。
これらの分析を通じて見えてきた最も本質的な課題は、求職者とD社との出会い方にあった。求職者が初めてD社を知るきっかけは、大手就職ナビサイトか人材エージェント経由に限られていた。つまり、D社は「受け身の採用」から抜け出せていない状況だったのである。多額の採用コストを投じながらも、その効果は限定的なものに留まっていた。
採用活動の成功のために
全てを支援する
他社の採用手法から採用成功につながる鍵を見つける
改めて、これまで調べてきた企業について、情報発信に限らず採用手法全般に関するリサーチを実施した。その中で、競合他社の成功事例から、特に注目すべき戦略が浮かび上がってきた。最も効果的だったのは、地方採用と全国採用の明確な棲み分けだ。採用成果を上げている企業の多くは、採用戦略を地域特性に応じて最適化していた。具体的には、地元就職を希望する求職者向けに地域別の採用サイトを独立して設置し、一方で全国採用向けのサイトを採用情報のハブとして位置付けていた。
特に地方採用における集客手法は巧みだった。地方就職を希望する求職者の多くは「地域名+業界」という検索パターンを用いる。競合他社はこの行動特性を徹底的に分析し、地方採用サイトをSEO対策の観点から最適化。さらに、エリアごとに的確な広告展開を行うことで、効率的な応募者獲得を実現していた。
一方、D社の現状は対照的だった。地方採用を実施しているものの、企業名での直接検索でしかヒットしない状況にあり、多くの潜在的応募者との接点を逃していることが明らかになった。さらに注目したのは、潜在的な求職者へのアプローチ手法だ。特に中途採用において、転職を検討し始めた段階の人々は、具体的な業界名ではなく「転職 始め方」といった一般的なキーワードで情報収集を始める傾向がある。競合他社は、こうした初期段階の求職者の行動パターンを把握し、転職マニュアル的なサイトへの戦略的な広告出稿を通じて、効果的な潜在層の取り込みを実現していた。
分析結果を形にする。エリアとターゲットに応じた採用改革
徹底的な分析結果を基に、鈴木は人事部へ具体的な改善提案を行った。「採用課題の解決に向けて、二つの施策から着手することを提案させていただきます。一つは地方採用の強化、もう一つは採用種別に応じたブランディングの確立です。」特に優先度が高いと考えたのは地方採用の強化だった。現状のD社の採用広報では、地方在住の求職者が「地元で就職したい」と考えた際に、D社の求人情報に出会える可能性が極めて低い。そこで、各地域の特性に合わせた採用サイトを新設し、地域ごとの採用基盤を確立する案を提示した。この施策により、各地域での認知度向上と、応募者数の増加が期待できる。
次に提案したのは、高卒・新卒・中途それぞれのターゲットに最適化した採用ブランディングの構築だ。説明会資料、採用サイト、採用パンフレットなど、すべての接点で一貫したメッセージを展開することで、D社の魅力をより効果的に伝えることができる。具体例として、高卒向けの施策では職場見学会と新卒向けインターンシップの全面的なリニューアルを提案した。当日使用する動画コンテンツから、プログラムの構成、登壇する若手社員の選定基準、伝えるべきメッセージまで、学生の心に響く情報発信を細部にわたって設計した。
これらの提案に対し、人事部長からは「とても良い提案をありがとうございます。一度にすべてを実施するのは難しいですが、できることから順番に進めていきましょう」との前向きな回答を得ることができた。
採用の成否を決めるのは『人』。人事部全体で会社の魅力を再確認
最後に鈴木が提案したのは、人事部社員一人ひとりへの採用レクチャーだった。どんなに優れた採用戦略を立てても、求職者の入社を決める最大の要因は「人との出会い」だからだ。面接や説明会で求職者と直接向き合う人事部のメンバーが、自社の魅力を自信を持って語れなければ、せっかくの戦略も活きてこない。そこで人事部長に相談し、全メンバーが参加するワークショップを企画した。実際、多くの企業の人事部は日々の実務に追われ、自社の本質的な価値や魅力を見つめ直す機会は少ない。今回の採用計画を単なる業務として進めるのではなく、D社の価値を一人ひとりが理解した上で、採用活動に取り組めるようにしたいと考えた。ワークショップでは、これまでの分析で見えてきたD社の強みや、競合他社との違い、そして今後の採用戦略について共有。さらに、参加者同士でD社の特徴について語り合う時間も設けた。「日々の業務に追われて、自分たちの会社の特徴を見失っていた気がします」「改めて会社の強みを整理できて良かったです」「これなら求職者の方にも具体的に説明できそうです」参加者からは次々と前向きな声が上がった。このワークショップを通じて、採用戦略を人事部全体で共有できる機会となった。
活躍する社員を増やし、
企業の成長を支えたい
内定がゴールではない。
入社後の活躍を支える仕組みづくりへ。
現時点では事例化できるほどの大きな成果は出ていないものの、これまで伸び悩んでいたエントリー数が増加に転じ、面接後の辞退率も着実に減少するなど、確かな手応えを感じ始めている。この支援を通じて、鈴木は採用支援のあり方そのものを見直すきっかけを得た。「採用して終わり」という従来の支援の形では、企業の本質的な課題は解決できない。せっかく採用できた人材が早期に離職してしまっては、企業にとっても、その人材にとっても不幸な結果になってしまうからだ。そこで、入社後の社員研修プログラムや、新入社員に向けた社内広報の再設計など、入社後の成長プロセスにまで支援の幅を広げることにした。人事部・広報部と連携しながら、採用した人材が確実に活躍できる環境づくりまでを一貫して設計している。
時代が変化しても、介護のようになくてはならない仕事は確実に存在し続ける。ただし、人材を採用できなければ事業の継続は困難だ。そして、採用してゴールとするのではなく、入社した人材を確実に育成し、日々前向きに働ける環境を整えることこそが、企業の持続的な成長には不可欠である。この経験を通じて、鈴木は採用から定着、育成までを一貫して支援する必要性を強く実感した。今後は、入社後の成長までを視野に入れた、新しい形の採用支援に取り組んでいきたいと考えている。